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Die Galerie

大聖堂
アントワープの大聖堂
オランダ発でフランスを目指すつもりが、最初から反対-オーストリア-方向に走り出し(*“漂泊の航跡”参照))、欧州をぐるりと回って帰国の飛行機のことを思って何となくやって来たブリュッセルだったが、真っ暗な早朝の駅で、「どうしたものか…」と少しだけ考えた…何処かで街の地図を仕入れて、喫茶店で珈琲でも愉しみつつ、ブリュッセルを歩く計画でも練りたかったが、何処も未だ開いていそうにない…唸る機関車のモーター音を聞き、振り返ると北へ向かう列車を見つけた。「一寸時間潰しに近くの街へ…」呆れる程の身軽さで、唸るモーター音に誘われるように、再び車中の人となった。
車中で時計を何気なく見た。「そろそろ喫茶店も開くだろう…未だ薄暗いが…」と思うと、列車はゆっくりとアントワープの仰々しい感じがする中央駅に停車した。「アントワープ…」
私は鞄を掴んでホームへ下りた。
珈琲を飲んで一休みした後、曇天の街を散策した。程なく、この大聖堂に行き当たった。「あの…」多分10分位ここで動けなかったと思う。ただ黙ってこれを見ていた…
幼少の頃に見たアニメの『フランダースの犬』の物語が頭を過ぎる。再放送も、偶々見かけると見入ってしまい、何度も見た。
心優しく絵を描くのが大好きなネロは、弱っていた犬のパトラッシュを助け、唯一の身内であったおじいさんと慎ましく暮らしていた。おじいさんが世を去り、ささやかな収入を得ていた牛乳運びの仕事も無くなり、そうしている間に小麦ごと風車小屋が燃えてしまった事件の濡れ衣を着せられ、賞金がかかった絵画コンクールの最終選考で惜敗し、雪の中を途方に暮れて村を去り、大聖堂へ向かう。その頃、大金が入った袋を「きっとお困りでしょう…」と持ち主に届けて正直さが見直され、風車の件は管理上の問題による事故だったことを腕の良い職人が指摘して村の人々も納得し、絵画コンクールの審査員が「今回は惜敗だったが、彼の絵は素晴らしい!」と才能を認めて訪ねてくれていた。ネロは何処で何をしているのか、と案じている人々だったが、ネロ自身は寒さでボロボロになりながら愛犬パトラッシュと大聖堂に居た。「一度見たい!」と思っていた、普段は覆いが被せられている聖堂を飾る巨匠の絵が、どういう訳かこの時は見られた。「パトラッシュ…僕が見たかった絵だよ…」とネロはパトラッシュとともに静かに昇天した…
というのが話しのあらましだ。考えてみると理不尽な位な話しである。せめて、大聖堂で弱っているところに皆が駆けつけて「身体が冷えているぞ!大変だ!医者を呼んで来い!確りしろ!」位のバタバタした終わり方位の方が、希望が持てるというような気がするのだが…
ネロが見たかった絵というのを自分も見てみようかと、踏み出すと、丁度アニメのオープニングのように、大聖堂の塔を螺旋状に回りながら星空へ駆けて行くネロとパトラッシュを見たような気がした…私は歩みを止めた…そのまま駅へ向かった…


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