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Die Galerie

バルト海のシンフォニー
ヘルシンキ港の豪華フェリー
氷点下の闇の中、雪煙を上げながらモスクワから北上し続けた列車は、国境の駅で少し長めに停車する。麻薬などの不審な品を探知する目的だろうが、ゴツイ犬を連れた、聞き慣れない言葉で話す税関吏が客車を歩き回る。何か問題がある訳でもないが、妙に緊張した空気が支配する。彼らが立ち去り、列車が再び雪煙を上げ始める頃、前夜から何度か顔を見ているロシアの車掌が「紅茶は要りませんか」と聞き慣れたロシア語で訊ねに現れる。お願いすると程なく金属のホルダーに付けた耐熱硝子のコップに湯気の立つ紅茶を入れて再び現れる。日が何時上るのか判然としない、どんよりとしていて粉雪がちらつく車窓を眺めながら熱い茶を啜ると、緊張していた空気が和らぎ、未知の国への期待が少しだけ高まった。
というのが初めてフィンランドに入った時の話しである。この時以来何度か入ったヘルシンキだが、ヘルシンキでは<シンフォニー号>と名付けられた、ストックホルムとの間を往来するフェリーに乗った想い出が大きな位置を占めている。
4万トン級の白い巨大な船体は、夥しい乗用車やトレーラーを飲み込み、到着地で吐き出しを繰り返している。「敵の敵は味方」と枢軸国寄りで第2次大戦を戦ったフィンランドは、独自にソ連と講和し、1950年代からソ連とのバーター貿易などを盛んに行い、所謂“東西”の交易で独特な位置を築き上げた。この巨大な船は、各々1千万に満たない人口のフィンランドとスウェーデンの物流を担っているのではなく、“ソ連圏”と“西欧圏”との窓口となっているのだ。
そんなことを考えながら乗船したが、乗船してみれば、こういう能書きはどうでも良い。とにかく豪華である。乗船すると直ぐ、“プロムナード”と称する吹き抜けのパブリックスペースが拡がっていて、船内には食事をする場所も酒を飲む場所も沢山あり、サウナも完備している。12時間の航海を快適過ぎる程に過ごせる仕掛けだ。
1994年に出会った<シンフォニー号>だったが、1998年に再開を果たした。何れの邂逅も、バルト海に氷が浮かぶ季節だったのが少々残念な感じもしないではないが…


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